「あのとき、ちゃんと言えばよかった」
家に帰ってから、そんなふうに思ったことはありませんか。
最近、身近な看護師からこんな話を聞きました。
人手が少なく忙しい勤務の中、レクリエーション係を担当していたそうです。
患者さんの血圧測定や点滴などを優先しながら、ほかのスタッフにも協力してもらい、できる範囲でレクリエーションに参加しました。
ところが勤務の終わりに、上司から「レク係なのだから、もっと参加した方がいい」と言われたそうです。
その場では何も言えず、あとになって「忙しい中で、どうすればよかったんだろう」とモヤモヤが残ったといいます。
相手との関係を考えて言葉を飲み込んでも、納得できない気持ちが残ることがあります。
この記事では、アサーティブ・コミュニケーションという考え方をもとに、自分の考えを無理なく伝える方法を紹介します。
なぜ言いたいことを我慢してしまうのか
言いたいことがあっても、相手との関係を考えるとなかなか言葉にできないことがあります。
- 相手を怒らせたくない
- 自分が我慢すれば済むと思ってしまう
- その場の空気を悪くしたくない
特に、相手が上司など、今後も関わる人であれば、反論することで関係が悪くなるのではないかと考えることもあるでしょう。
相手に配慮すること自体は悪いことではありません。ただ、自分の事情や考えを何も伝えられないままでは、相手にも状況が伝わりません。
今回の看護師の話でも、上司がその日の業務状況をどこまで把握していたのかは分かりません。
自分がどのように考えて行動したのかを伝えることで、お互いの認識の違いに気づける場合もあります。
アサーティブ・コミュニケーションとは?
アサーティブ・コミュニケーションとは、自分の考えや気持ちを率直に伝えながら、相手の立場や意見も尊重するコミュニケーション方法です。
自己表現の方法は、大きく3つのタイプに分けて説明されることがあります。
| タイプ | 特徴 | 今回の看護師の例 |
|---|---|---|
| 非主張的 | 自分の考えを伝えず、我慢する | 上司に何も言えず、あとからモヤモヤする |
| 攻撃的 | 相手の立場を考えず、自分の主張を押し通す | 「こんなに忙しいのに無理ですよ!」と言い返す |
| アサーティブ | 自分も相手も尊重して伝える | 業務状況を説明し、今後の対応を相談する |
アサーティブは、相手の意見に何でも従うことでも、自分の考えを一方的に押し通すことでもありません。
例えば、上司から納得できないことを言われたとき。
「分かりました」と我慢するだけでは、自分の事情は伝わりません。
一方で、感情的に言い返してしまうと、話し合いが難しくなることもあります。
自分が置かれていた状況を説明し、相手の考えも聞きながら解決方法を探す。
そのような伝え方が、アサーティブ・コミュニケーションの一例です。
言いたいことを伝えるDESC法
アサーティブ・コミュニケーションを実践する方法の一つに、DESC法(デスク法)があります。
自分の考えを整理し、相手に伝えるための4つのステップです。
① D:Describe(事実を説明する)
まず、何が起きたのかを客観的に伝えます。
「今日は血圧測定や点滴が重なり、レクリエーションに十分参加できませんでした」
② E:Express(自分の考えを伝える)
次に、そのとき自分がどう考えていたのかを説明します。
「私としては、患者さんの処置を優先する必要があると判断しました」
③ S:Specify(具体的に提案する)
今後どうしてほしいのか、具体的な提案をします。
「同じような状況になった場合は、レクリエーションの担当を調整していただけないでしょうか」
④ C:Consequences(結果を伝える)
最後に、提案によって期待できる結果を伝えます。
「担当を調整していただければ、患者さんの処置を優先しながら、レクリエーションも円滑に進められると思います」
このように、事実、自分の考え、具体的な提案、その結果という順番で伝えるのがDESC法です。
実際の会話では、毎回4つのステップをすべて使う必要はありません。
例えば、
「今日は処置が重なっていたので、レクに十分参加できませんでした。今後、同じような場合はどう対応したらよいでしょうか?」
このように短い言葉でも、自分の状況を説明しながら、相手に相談することができます。
あとからでも、自分の考えを伝えていい
私自身も、相手を目の前にするとうまく言葉が出てこないことがあります。
家に帰ってから「あのとき、こう言えばよかった」と考えてしまうこともあります。
その場で伝えられなかったとしても、あとから話したり、メールで伝えたりする方法もあります。
相手がどう受け取るかまでは分かりません。状況によっては、無理に伝えない方がよい場合もあると思います。
私もまだ、自分の考えをその場で伝えるのは得意ではありません。
相手に配慮するだけでなく、自分の考えも落ち着いて伝えられるようになりたいと思っています。
参考文献
Omura, M., et al.(2017)
「The effectiveness of assertiveness communication training programs for healthcare professionals and students: A systematic review」
『International Journal of Nursing Studies』76, 120–128.


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