訪問看護ステーションを開業するとき、不安になることはいくつもあります。
人員基準を満たせるのか。
開業資金は足りるのか。
そして、僕自身が一番気になっているのが、
「本当に利用者さんが来てくれるのか」
ということです。
僕が将来、精神科訪問看護ステーションを立ち上げるとしたら、最初は利用者さん0人からのスタートになります。
看護師を確保して、事務所を借りて、車を用意して、指定を受けた。
それでも利用者さんが0人なら売上も0円です。
スタッフの給料や家賃などの固定費だけは出ていきます。
開業について調べれば調べるほど、
「ステーションを作ること」と「利用者さんに来てもらうこと」は全く別の問題なんだと感じるようになりました。
では、精神科訪問看護ステーションを0人から始める場合、どうやって利用者さんとのつながりを作っていけばいいのでしょうか。
今回は、自分が実際に開業することを想定して調べてみました。
【精神科訪問看護は「営業」より「地域連携」と考える】
最初に僕自身が少し引っかかったのが「営業」という言葉です。
精神科訪問看護は商品を売る仕事ではありません。
だから、
「利用者さんを紹介してください」
と言って病院やクリニックを回ることには、少し違和感があります。
調べていく中で、僕は「営業」ではなく、
「地域の支援者に自分たちのステーションを知ってもらう活動」
と考えるほうがしっくりきました。
精神科の利用者さんは、医療機関だけと関わって生活しているわけではありません。
精神科病院、精神科クリニック、訪問看護、相談支援事業所、市区町村など、いろいろな機関が関わりながら地域生活を支えています。
つまり精神科訪問看護の利用者さんを増やすことは、単にチラシを配ることではありません。
「こういう利用者さんなら、あのステーションに相談してみよう」
と思い出してもらえる関係を地域の中で作ることが大切なのだと思います。
【精神科訪問看護なら、まずどこに挨拶するのか】
僕が精神科訪問看護ステーションを開業するとしたら、最初に地域の関係機関をリスト化します。
優先したいのは、
・精神科病院
・精神科クリニック
・相談支援事業所
・市区町村の障害福祉や精神保健の相談窓口
・保健所や保健センター
・地域包括支援センター
・居宅介護支援事業所
などです。
ただし、全部を同じ優先順位で回る必要はないと思います。
僕が精神科に特化して始めるなら、まず精神科病院、精神科クリニック、相談支援事業所を重点的に回ります。
【精神科病院では誰に挨拶すればいいのか】
精神科病院へ行って、いきなり受付で、
「院長先生に会わせてください」
という営業は、僕ならしません。
精神科病院には地域連携室や医療相談室などがあり、精神保健福祉士(PSW)や医療ソーシャルワーカー、退院支援を担当するスタッフがいることがあります。
退院後の生活を考える場面では、こうしたスタッフが訪問看護などの地域サービスとの調整に関わります。
だから僕なら、まず電話します。
例えば、
「○月にこの地域で精神科訪問看護ステーションを開設予定の○○と申します。地域連携や退院支援をご担当されている方に、一度ご挨拶させていただきたいのですが」
という伝え方です。
いきなり訪問するより、まずアポイントを取ります。
そして訪問したら、
「利用者さんを紹介してください」
ではなく、
「こういうステーションを開設します」
「精神科を中心に対応します」
「この地域まで訪問できます」
「このようなケースに対応できます」
と、自分たちが何者なのかを知ってもらうことを第一の目的にします。
最初から紹介をもらおうとしない。
まず存在を知ってもらう。
僕ならここから始めます。
【精神科クリニックも重要な連携先】
精神科訪問看護では、精神科クリニックとの関係も重要だと思います。
特に患者数の多い精神科・心療内科クリニックでは、地域生活に支援が必要な患者さんを診ている可能性があります。
規模の大きなクリニックなら、精神保健福祉士など相談を担当するスタッフがいる場合もあります。
その場合は、医師だけではなく相談担当者にもステーションを知ってもらうことが重要です。
小さなクリニックなら受付を通して、
「訪問看護ステーション開設のご挨拶をさせていただきたいのですが」
と確認する。
大きなクリニックなら、
「地域連携や患者さんの相談を担当されている方はいらっしゃいますか」
と確認する。
相手の体制に合わせて窓口を探していくことになります。
訪問看護ステーション開業に必要な人員や資金については、こちらの記事で詳しくまとめています。
▶︎ 訪問看護ステーションの開業方法と必要資金を完全解説|失敗しないためのポイント
【相談支援事業所も忘れてはいけない】
僕が今回調べていて、改めて重要だと思ったのが相談支援事業所です。
精神障害のある方の場合、医療だけではなく障害福祉サービスを利用しながら地域で生活している方もいます。
その生活全体を支援している相談支援専門員と訪問看護が連携するケースがあります。
病院だけを何十件も回るのではなく、
「この地域にはどんな相談支援事業所があるのか」
を調べて挨拶しておく。
これは精神科訪問看護では重要だと思います。
【市役所には何をしに行くのか】
市役所については、
「市役所から利用者さんを紹介してもらおう」
という感覚では行かないほうがいいと思います。
目的は地域の精神保健福祉のネットワークに入っていくことです。
障害福祉担当部署や精神保健相談を担当する窓口などに、
「この地域で精神科訪問看護ステーションを開設しました」
と情報提供する。
そして地域の、
・精神保健に関する会議
・地域の連携会議
・研修会
・事業者向け説明会
などがあれば参加していく。
一度名刺を渡して終わりではなく、地域の支援者として少しずつ顔を覚えてもらうことが大切だと思います。
【では、いつから挨拶回りを始めるのか】
ここは僕自身、かなり気になりました。
「開業3か月前から営業する」
という話もあります。
でも僕は、
「3か月前に挨拶しても、開業するときには忘れられてしまうんじゃないか」
と思いました。
実際に調べてみても、開業前の挨拶回りについて「絶対に3か月前」という決まりがあるわけではありません。
開業支援事業者のスケジュールでは、開業2か月前から地域への挨拶回りを設定している例があります。
一方で1か月前から集中的に行うという考え方もあります。
僕なら、
「3か月前から営業する」
ではなく、
「3か月前から準備して、2か月前から動き始める」
という方法を選ぶと思います。
【月1回、毎月挨拶に行く必要はあるのか】
ここも気になります。
僕は、
「毎月1回必ず病院に行く」
と最初から決める必要はないと思います。
相手も仕事をしています。
毎月、
「利用者さんいませんか?」
と訪問されたら、むしろ負担に感じる可能性があります。
大切なのは回数ではなく、
「相手に伝える意味のある情報があるか」
だと思います。
例えば、
「現在、新規3名受け入れ可能です」
「○○市まで訪問範囲を広げました」
「土曜日も対応できるようになりました」
「男性看護師による訪問が可能です」
「精神科のこのようなケースに対応できます」
などです。
こうした情報があれば、連絡する理由があります。
何も変わっていないのに毎月パンフレットだけ持って行くより、
「必要なときに思い出してもらえる関係」
を作るほうが大切だと思います。
【パンフレットには何を書くのか】
パンフレットも、
「私たちは利用者様に寄り添います」
だけでは、紹介する側からすると判断しにくいと思います。
僕ならもっと具体的にします。
・精神科訪問看護に対応
・訪問可能地域
・営業日、営業時間
・24時間対応の有無
・土日対応の有無
・男性看護師対応の有無
・対応できる疾患やケース
・医療保険、自立支援医療への対応
・新規受け入れ状況
・問い合わせ先
などです。
紹介する側が知りたいのは、
「この人をお願いできるのか」
だからです。
自分たちの理念も大切ですが、それだけでは紹介につながりにくい。
「何ができるステーションなのか」を一目で分かるようにしたいと思います。
【最初の目標は「利用者を増やす」ではなく「相談される」こと】
僕がこの記事を書くために調べていて、一番大切だと思ったのがここです。
開業すると、
「利用者0人だから早く10人にしなければ」
と焦ると思います。
僕も間違いなく焦ると思います。
でも、
0人→10人
だけを考えると、
「紹介してください」
という営業になってしまいます。
そうではなく、
最初の目標を、
「地域の支援者から相談の電話が来るステーションになる」
と考える。
「こういう人がいるんですけど、訪問できますか?」
最初はこの一本の電話をもらうことが重要なのだと思います。
その相談に早く、丁寧に対応する。
もし受け入れられなかったとしても、
「そのケースなら○○の方法も考えられるかもしれません」
と一緒に考える。
そういう対応の積み重ねが、
「あそこに一度相談してみよう」
につながっていくのではないでしょうか。
【精神科だからこそ「どんな人を受けられるか」を明確にする】
精神科訪問看護と一言で言っても、利用者さんはさまざまです。
統合失調症。
うつ病。
双極性障害。
発達障害。
依存症。
ひきこもり。
服薬管理が難しい人。
受診が途切れがちな人。
家族との関係に課題がある人。
生活リズムが崩れている人。
だから、
「精神科対応できます」
だけでは少し弱いと思います。
自分たちが特にどんな支援を得意としているのか。
ここを言葉にすることが、他のステーションとの違いになります。
僕自身も精神科訪問看護の現場で働いているので、開業するときには、この経験を一つの強みにしたいと思っています。
【ゼロから始めるなら、開業前の2か月を無駄にしない】
僕はまだ訪問看護ステーションを経営しているわけではありません。
だから、
「この方法なら絶対に利用者が増える」
とは言えません。
むしろ自分自身が、
「本当に0人から利用者さんが増えるのだろうか」
と不安に思っている側です。
でも調べていくと、開業日になってから、
「さて、利用者さんをどうやって探そう」
では遅いということは分かってきました。
僕なら3か月前から地域の情報を集めます。
2か月前から重要な連携先への挨拶を始めます。
1か月前には開業日や受け入れ条件を具体的に伝えます。
そして開業後も、
「利用者さんを紹介してください」
ではなく、
「困ったケースがあったら相談してください」
と言える関係を一つずつ作っていきます。
精神科訪問看護ステーションを作ることがゴールではありません。
地域の中で、
「あのステーションなら相談できる」
と思ってもらえること。
利用者0人から始める僕にとっては、そこが本当のスタートなのだと思います。
※この記事は、精神科訪問看護ステーションの開業を検討している現役訪問看護師が、公開されている制度・開業支援情報などを調べ、自分が実際に開業する場合を想定してまとめたものです。地域によって医療・福祉資源や連携方法は異なります。また、指定前の案内や利用者受け入れについては、開設予定地域の指定権者等にも確認してください。


コメント